有害化学物質をブロックして長期に渡って木材を守る「ロハスコート」
◇厚労省が新方針 新物質追加は15年ぶり
厚生労働省は、シックハウス症候群など体調不良を引き起こすおそれのある三つの化学物質について、新たに室内濃度の指針値を定める方針を固めた。有識者の検討会で合意しており、年内に正式決定する。室内濃度指針値は、「シックハウス」が社会問題化した2000年前後にホルムアルデヒド、トルエンなど13物質について相次いで定められたが、新たな物質の追加は15年ぶりとなる。
新たに指針値が設定されるのは、水性塗料の溶剤に使われている「テキサノール」や、接着剤や塗料に含まれる「2−エチル−1−ヘキサノール」など。テキサノールは、既に指針値のあるフタル酸エステル類の代わりに広く使われている。2−エチル−1−ヘキサノールはオフィスなどのビニール製の床材から放散され、問題になることが多いとされる。同時に、キシレン、エチルベンゼンなど4物質については、既に定めている指針値を改定し、規制を強化する。
13物質の指針値が設定されて以降、建築業界などは使用を控え、これらの化学物質が指針値を超え検出されることは少なくなった。一方で、代替として使われているテキサノールなどがシックハウス問題を引き起こすケースが報告され、規制が必要と判断された。
キシレンやエチルベンゼンなどの規制強化は、過去10年あまりに蓄積された新たな調査データに、現在の指針値より低い値を妥当とする研究報告があるため実施する。キシレンの濃度は従来の4分の1、エチルベンゼンは66分の1に引き下げられる。指針値は、それ自体に法的強制力はないものの、業界が自主規制する際の根拠になったり、文部科学省が教室の環境衛生を定めた「基準値」として使用されたりするなど一定の効果を上げている。
◇シックハウス症候群
住宅の建材や家財道具から放散される化学物質(揮発性有機化合物)が主な原因で、のどや鼻の不調、頭痛、アレルギーの悪化などさまざまな症状を生じる病気。住宅の高気密化により1990年代後半から顕著になった。学校やオフィスでも発生する。
◇総量規制が不可欠
2000年前後に社会問題化したシックハウスが沈静化したのは、原因物質の指針値設定や建築基準法の改正により、ホルムアルデヒドやトルエンの使用制限が進んだことが大きい。
だが、シックハウスの問題はその後もなくならず、北海道の小学校(07年)や大阪大学(08年)で、児童・学生らが体調不良を起こした事例があったほか、一般住宅の新改築時に起きた健康被害などで関係機関にはその後も相談が寄せられている。これは規制に効果がなかったのではなく、原因の多くが指針値のない化学物質に移ったためとみられる。こうしたことから厚労省の「シックハウス問題に関する検討会」は12年、8年ぶりに再開され、新たな指針値の検討に入った。
結論に5年もかかったが、「新たに問題が発生すれば指針値を設定し、注視していく」という姿勢を見せたことは評価できる。検討会は毎回、業界関係者らで傍聴席がほぼ満席となり、関心の高さをうかがわせた。新指針値は、業界に一定の影響力を及ぼすだろう。
一方で「ある化学物質を規制すれば、別の化学物質が使われて新たなシックハウスを起こす」という「いたちごっこ」に陥るとの指摘もある。専門家の間では、リスクを下げるには化学物質の「総量規制」が欠かせないという声は強い。今後は、室内空気に含まれる化学物質の総量(TVOC)を測定し、指針値を示すなど踏み込んだ検討が必要だ。